アマゾンジャパンが偽造品の出品に適切な対応を怠ったとして、医療機器販売会社「エクセルプラン(以下「エ社」)」がアマゾンを訴えていた件に対して、東京地裁は、アマゾンに3,500万円の損害賠償を命じたという報道がなされました。
事案の概要
エ社は、神戸市の医療機器メーカー「トライアンドイー」が製造したパルスオキシメーター(商品名:Pulxy)をアマゾンで販売していました。しかし、2021年8月頃から、同じ商品ページに、中国の業者によるとみられる偽造品が「相乗り出品」されるようになりました。
これらの偽造品は、正規品の定価約2万6千円の約10分の1の価格で販売されており、品質にも問題がありました。その結果、商品ページには「電源が入らない」「数値が不正確」「日本製だと信じたらだまされた」などの低評価レビューが多数投稿されました。
エ社は、アマゾンに対して偽造品の削除を求めましたが、アマゾンは対応を行わず、逆に正規品の出品が停止される事態となりました。これにより、エ社の売上は大幅に減少しました。
相乗り出品とは
アマゾンの「相乗り出品」とは、既存の商品ページに対して複数の出品者が同一の商品を出品できる仕組みです。例えば楽天市場などは、同じ商品を複数の小売店が販売するとき、各店舗がそれぞれ商品ページを作成して販売します。一方でアマゾンでは、「1つの商品には1つの商品ページ」という、カタログ方式というシステムが採用されています。例えば、同じiPhone15を売るなら、商品ページは1つだけ作成され、すべての店舗が同じページで販売することになります。勝手に別のページを作成することもできますが、アマゾンに発見され次第統合されます。
カタログ方式は、利用者には便利な一方、出品者にとっては、正規品のページなのに模倣品が紛れ込みやすいという問題点が指摘されています。
今回は何が問題になったのか
報道によれば、偽造品はエ社の本物に比べて10分の1程度の価格であったことから、エ社の出品が高すぎるとして、出品停止されたようです。アマゾンでは、価格競争をさせてユーザーエクスペリエンスを高めるという価値観から、複数の販売業者間で価格に開きが大きいときに、高い方の出品が、システムにより停止されることがあります。これは昔から採用されているものです。当然、たいてい、後発のほうが安いので、本家の出品が停止されます。
今回はおそらく、この出品停止を受けて、エ社は、安いものは偽造品だとアマゾンに通知をし、向こうの出品を止めるべきだと主張したのだと思われます。しかしアマゾンは、それを受けて商品ページ自体を削除しました。そのためエ社は、アマゾンで販売を継続することができなくなり、損害を被ったという経緯のようです。(※正確な事実経緯は判決文の公開を待たないとわかりません。)
アマゾン規約の確認
アマゾンで出品を開始するときに、出品者はアマゾンの規約に同意する必要があります。これにより、両者間の契約が成立します。同規約によれば、アマゾンが商品ページを削除できる場合には、以下のケースが含まれます。
- 医療品・医療機器的のような効能を記載している
- 出品禁止や規約違反の商品を出品している
おそらく、偽造品は、1に関する許認可を取っていなかったので違法だったと思われます。また偽造品ということで、(法的根拠はまだわかりませんが、)2にも該当した可能性があります。アマゾンが商品ページを削除した根拠はこのあたりだと思われます。
免責(抜粋)
Amazon サービスビジネスソリューション契約では、以下のように規定されています。
免責
a. Amazonサイトおよびサービス(サービスに関連して利用可能な、または提供されている全てのコンテンツ、ソフトウェア、機能、素材および情報を含みます)は、「現状有姿」で提供されます。サービス利用者は、Amazonサイト、サービスおよびセラーセントラルをサービス利用者自身の責任で利用します。上記5条に規定する場合を除き、法が認める範囲において、Amazonおよびその関連会社は、
(i)本契約、サービスまたは本契約によって企図される取引に関連する表明または保証(販売可能性、特定目的との適合性または権利を侵害していないことの黙示の保証を含みます)、
にも責任を負いません。
裁判所の判断
弁護士ドットコムの記事によれば、裁判所は以下のような判断をしたそうです。
原告によれば、判決は、同社の商品を合理的な理由なく出品停止にしたり削除したりしない義務を認めたうえで、免責せず賠償責任を認めた。また、販売業者から偽造品の申告をうけた場合に削除する義務があると認定したが、賠償責任は認めなかった。
相乗り出品者の販売資格や偽造品かどうかを確かめる義務は認めず、レビュー汚染によってメーカーの信用が毀損されたとの主張は認められなかったという。
おそらく、アマゾンの削除が乱暴すぎたので、損害賠償請求が認められ、アマゾンは免責条項を根拠とする抗弁を主張したけれども認められなかったということなのだと思います。
アマゾンのような、大量の出品があるプラットフォームでは、ひとつずつ丁寧に審査・判断できないことは仕方ないと思います。ですが、あまりに乱暴な場合は、法的責任を負うと言われてしまったひとつの先例的事例なのかもしれません。
商標登録とアマゾンブランド登録の重要性
さて、本件はここまで大問題にならないといけなかったのかということについては、少々違和感があるかもしれません。
アマゾン側の視点から見てみると、そういうのはブランド登録という制度を用意しているんだから、それを使って自分で対応してくれと言いたいはずです。
アマゾンブランド登録とは、アマゾンのシステムにおいて、ブランドを自分で管理できるサービスです。ブランドホルダー側で一定のリスクを負いつつ、自ら模倣品を排除できるサービスです。アマゾンとしては、これを使って、自らの責任で排除してくれと、本音では思っているでしょう。
軽く調べたところ、「Pulxy」は商標登録されていないようです。いま、アマゾンで最も効率よく偽物を排除する方法は、商標登録をして、かつ、アマゾンブランド登録をして、自らそうした出品を排除することです。今後このような大トラブルが発生しないように、早めに商標登録をするようにすることをお勧めします(特に製造者自らが出品する場合には、もはや必須だと思います。)。
税関差止を利用する方法も
今回は、請求額が2億8千万もあり、仮に偽造品の販売価格が1/10であっても、(4社あったようですが、全体でも、各社でも、)かなりの売上があったものと思われます。こうした大きな規模の模倣品対策では、税関での輸入差止も有効です。