SNSで炎上させて商標出願の取り下げをさせることは許されるのか 〜「AI Coding」の事例から考える〜

商標

プログラミングスクールなどの事業を展開されている企業が、「AI Coding」の商標を、標準文字で、「第41類 コンピュータープログラミングに関する教育又は指導、技芸・スポーツ又は知識の教授」等を指定役務として出願したことについて、ネットで話題になっています。最終的には、炎上をきっかけとして、出願取下という結果になりました。私も少し関与しているので、考えてみたいと思います。

本件は、「AI Coding」の商標が、プログラミングスクールが提供する役務の内容を表示する商標であり、識別力も独占適応性も有しないであろうことは、おそらく、専門家であれば、あまり議論の余地がないところだと思います。単純にググっただけでも、2300万件以上がヒットします。ちょっと雑な議論なので、実務と同様の観点でのご批判はご容赦いただきたいですが、いずれにせよ、生成AI時代において、もはや普通名称化していたり、記述的であると評価することに、おそらく問題ないように思われます。

このような商標は、誰もが等しく使用したいものですので、一企業に独占させるのはふさわしくないと考えることは、適切だと思います。そのような場合は、以下のような手段で、独占を阻止することを試みることができます。①審査段階においては、特許庁に情報提供をする。②登録直後であれば、異議申立をする。③その後は、利害関係者に限り、無効審判が請求できる。

これは法律手続一般にいえることですが、後ろの方の手続きになるほど、コストがかかりがちです。例えば、情報提供なら、特許庁への印紙代は不要ですが、異議申立以降では、5万以上の印紙代がかかります。弁理士費用も、後ろになるほど高くなりがちです(情報提供と無効審判では、桁がひとつ変わるくらい違います)。

今回は、一個人(インフルエンサー)が、生成AI時代の今後のことを考えて、「AI Coding」をみんなで使える世界を保障しようと、私費で(※協力者から投げ銭の支援をもらいました)情報提供をしようとしました。その結果、ネットで少し炎上気味になり、出願人において、出願取下の判断をするという結論となりました。

過去に「ゆっくり茶番劇」という商標が一個人に登録され、ネットの世界で炎上したことがありました。その前には、「人の金で焼肉食べたい」という商標が登録され話題になったこともあります。このような、誰もが等しく、自由に使用できるべきと思われる商標が登録された経験を経て、ネット界隈では、以前よりもこうした商標の出願に対して敏感になっています。

今回は、情報提供をするまでもなく、出願人からの取り下げの意思が表明されました。今後、同じ商標が、他人などからまた出願された場合、それが登録されないことまでは保証されないものの、前述のとおり、基本的には、(情報提供や取り下げの事実にかかわらず、)本件商標は、当面は識別力がないと考えてよさそうです。結局は妥当な結論に落ち着いたといえると思います。


ところで本件は、(未確認ですが、SNSの情報を見る限り、)事前に出願人に取り下げを打診したが断られ、情報提供に踏み切ったところ、炎上し、それを受けて出願取下という判断に至ったという経緯があるようです。

今回のような出願を登録させない、又は登録された後に潰すための法的な手段は、前記①〜③のとおりですが、それプラス、「炎上させて取り下げさせる」ことが許されるのでしょうか。

これには賛否両論あります。

否定的な意見では、例えば弁理士の立場では、自分が代理した出願や登録が炎上したら、事業に影響が出るかもしれませんし、同時に、依頼者の事業にも影響があるかもしれません。このような観点から、炎上などさせずに、粛々と法的手続をしたらいいじゃないかという意見があります。

一方で、今回のようなドストライクなケースはともかく、もう少し識別力が微妙なケースは、情報提供をしても登録を阻止できるかわからないこともあり、炎上させて本人にプレッシャーをかけるという戦略も、現代において、現実的な手段として認めてもよいかもしれません。私はこの立場で、ちざいぬというサービスを提供しています(※別に炎上させるサービスではありません)。

特に今回のように、インフルエンサーが、社会正義の観点から、ファンを巻き込んで(例えばみんなで資金を出し合うことを提案するなど)手続きをしようとすると、自然と炎上してしまうものだと思います。仮にそれを望んでいなくてもです。それでも、結果として妥当な結論に落ち着くのであれば、それはそれで受け入れるという価値観もあってよいかもしれません。

なお、炎上させるということには、法的リスクが伴います。不法行為として損害賠償責任が発生するかもしれませんし、刑事面でも、名誉毀損や信用毀損、業務妨害などにならないように、十分に配慮することが必要です。今回は、純粋に情報提供をすると表明しただけなので問題ないと思いますが、例えば、ファンが過剰に反応して、出願人を貶めるような投稿をすると、違法行為となる可能性があるので、注意が必要です。出願人にも、それはそれで正義があって出願しているのでしょうから、必要以上の攻撃をすることがないように心がけたいものです。

ちなみにアイキャッチ画像は、ChatGPTに作らせたのですが、イマイチのものしか出せませんでした…。

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